ヴァンピーブルズ親子インタビュー
その2:マリオ編
中田 さて、日本でも、『スウィートバック』のことはかなり多くの人に知られるようになりました。決して色褪せない映画ではありますが、いまスウィートバックをとりあげた理由を教えてください。
マリオ 映画『アリ』に僕は役者として出演し、マルコム Xを演じた。僕は映画のためにモハメッド=アリにインタビューした。アリは終始「お父さんさんは元気かい? いまはどうしてるの?」と聞いていた。それで、『アリ』のような「世界初のブラックパワーのアスリートの映画」があるなら、「世界初のブラックパワーのフィルムメイカーの映画」もあってしかるべきって思ったんだ。幸運にも父さんは『スウィートバック』のメイキング本(注※1)を既に出版していた。父さんに相談したら「いいぞ。おまえに映画化権を売ってやる。」と言われたよ。だから映画化権を買わなくちゃならなかった(笑)。それで本を読みなおしてみた。信じられないすごいストーリだ。EW&F、ビル=コズビー、当時起こっていたいろんな事件...。初の人種混合の撮影スタッフ。これはやらなきゃと思ったよ。僕の家は映画の家系だ。
中田 『アリ』に引き続いてマイケル =マンが今回もプロデューサですね。
マリオ マイケル =マンは、30年前に彼女と最初のデートで『スウィートバック』を観たんだそうだ。「初デートにピッタリの映画だった」と言ってたよ(笑)。それが今の彼のワイフだよ。
中田 次に脚本にかかったわけですね。
マリオ そう。脚本を書いてスタジオを廻った。そうしたら「もっとヒップホップ・コメディの要素を増やそう」とか「もっとおもしろおかしくしよう」とか言われる。わかりやすく、政治的要素を少なく、セクシーな要素を少なく ...。
中田 “セクシーな要素も少なく”?
マリオ そう。セクシー過ぎないようにって。「白人映画か黒人映画かどっちかに絞ろう」とか。僕は「これは“黒人映画”じゃない。“人間映画”だ。全ての人に伝えたいメッセージだ。“黒人映画”に限定したらメッセージが薄れてしまう。」って言ったんだ。そういうわけで自主制作の道を選んだ。父さんがやったようにね。
中田 撮影期間は?
マリオ 『バッドアス!』は 18日間だった...。映画『ニュージャックシティ』は36日間で、『黒豹のバラード』と『パンサー』は40日間くらいだったから比較的短いね。でも映画をやるときはいつも同じさ。友だちをかき集め、知人を呼び寄せ、たくさんのお願いをして廻って...。オジー=デイヴィス(注※2)も来てくれたし。皆のエネルギーをひとつに集めるんだ。
中田 だから製作中はスタジオがまだ決まってなかったんですね。その後で売りに廻ったと ...。
マリオ トロントで上映した時には皆「ワオ!」って感じだったな。それで最終的にはソニークラッシックス社が買ってくれた。
中田 製作には自分でお金を借りないといけなかったんですよね?
マリオ いや、役者としてのギャラと、家とホテルの売上があったから大丈夫だったよ。
中田 映画監督という仕事についてどう思いますか? 例えばフランシス =コッポラは、責任が重すぎていつも逃げ出したくなるから嫌な仕事だ、と言っていましたが。
マリオ 映画をつくるのは実際大変だよ。でも、 NY市長の下で予算管理の仕事をやっていた時はもっと苦痛だった(笑)。3つ好きな事を挙げるとね、まず映画ビジネスが好きだ。2番目に、好きな人達と仕事をしてる。3つ目に世界中の人達に映画のことを話すのも大好きだ。そしてこの業界に“変革”を起こすこと。だからまあ、サイコーだね。僕の兄弟姉妹はまた違う仕事をしている。好きな業界で仕事をして“変革”を起こすことってとても重要だと思う。
※ 1「『スウィートバック』のメイキング本」..... ” Sweet Sweetback ' s Baadasssss Song: Guarilla Filmmaking Manifesto (1997) ”
※ 2 オジー=デイヴィス(Ossie Davis).....俳優・映画監督。60年代アメリカにあって ” 個性的 ” 黒人俳優として苦難を乗り越えてきたことや、妻・ルビー =ディーとおこなった数々の人権運動で今日賞賛される。
中田 メルヴィンは『ウォータメロンマン』(注 3)が気に入っていない、というようなことを読んだことがあります。『バッドアス!』でもそう言ってましたよね? とてもいい映画と思うのですが、どこがダメなのですか?
マリオ それは父さんが答えるべきだ。
メル (横で休憩していたが割ってはいってくる。)いや、『ウォーターメロンマン』は私も気に入ってる。しかしこの映画は、何をしろ、とは言わないタイプの映画だ。積極性がない「受け身」の映画なんだ。映画のラストではすごいシーンが待ってる。だが実際の「闘う方法」までは語ってないだろ? ほとんどの映画は問題提議のみにとどまってる。『ウォーターメロンマン』もそうだ。実際のところ、私はこの映画のエンディングを書き変えたんだよ。オリジナルでは、主人公がまた白人に戻るという設定だった。変更して、黒人のままにしておいたからマシにはなったけどね。ナイスで面白い映画ではある。ただそれだけ、ということだ。
マリオ 「問題」には3段階が必要だと思う。問題を認識すること、分析すること、解決策を見いだすこと、だ。『バッドアス!』の中でもそれを描いているよ。主人公(メルヴィン)が問題をまず認識する。スタジオは、黒人に限らずアジア人・ヒスパニックを含む有色人種は、映画のラストに死ぬか/殺されるか/馬鹿者であるか/コメディアン風か、のいずれかの脚本しか容認しない、という問題だ。これを主人公は分析して乗り越えるんだ。
※ 3 ウォーターメロンマン Watermelon Man.....1970年/監督Melvin Van Peebles/主演Godfrey Cambridge 平凡な白人のセールスマンが、ある朝目覚めたら黒人になっていた、という設定のコメディ。人種差別的なアメリカの現状を痛烈に批判している。
中田 ところで『ニュージャックシティ』の内容には満足していますか?
マリオ そうだね。この手の映画としては最高の出来だね。「ギャングスタ映画」としてはね。 中田 あれもインディペンデントだったのですか?
マリオ いやワーナーブラザーズだ。でもファイナルカット(最終決定権)は僕にあったんだ。
中田 じゃあ撮影に入る前にファイナルカットの合意はすでに済んでいたんですね。
マリオ そうだ。
中田 前から訊ねてみたかった質問なのですが、アジア系アメリカ人の刑事ですが ...。
マリオ ラッセル =ウォンだ。
中田 彼は死にますよね。
マリオ (そうだったかな?というような顔をする)
中田 咽を切られて ...。
マリオ ああ、そうだった ...。しかし、登場人物のほとんど全員が死ぬよ(爆笑)。しかしながらね、僕が中国系の俳優を頼んだ時には、コメディアン向きの役者ばかりを送ってよこしたんだ。でもラッセルだけは違ってた。彼は主役向きの顔立ちだ。だから雇った。僕はアジア人も黒人も白人も映画に入れる。(どの人種も)魅力的な人間になれる、っていうメッセージだよ。『ニュージャックシティ』の当時さえ、主役向きの黒人俳優は居なかったんだ。『ジョーズ4復讐編』では僕は道化役を演じた。『ハートブレイクリッジ/勝利の戦場('87)』でも道化役をやった。ウェスリー=スナイプスは『メジャーリーグ('89)』で道化役だった。『ランブルフィッシュ('83)』では、ローレンス=フィッシュバーンは白人の主役の「親友」だった。みんな道化役か良くても脇役なんだ。だからウェスリー=スナイプスに「君は主役だ」って言ったんだよ。プロデューサーがやってきて「君が好きなようにやっていい。白人に助手の役をやらせても面白いのでは?」と言った。僕はそれどころか、警視総監役を黒人にした。(演じてみせる)「Do it by the book, or I'll have your ass!」ってね。黒人がこんな役を演じてるなんて凄いことだよ。
マリオ アクション映画だからアクションしてなくちゃいけない。銃を撃ったりね。机に座って文句を言うキャラクターは必要なかったんだ。だからメインの刑事3人を、アクションをする白人・黒人・アジア人にしたんだ。しかも魅力的なキャラクターに仕上げたんだよ。
中田 ハリウッド初の2枚目アジア系の役どころをつくった、と。
マリオ そうだ。映画の中で黒人像が勝手に描かれ、世界中に配給されていく … 。ハリウッドのスタジオは嘘つきなんだ。ボクサーの世界ヘビー級チャンピオンは、モハメド =アリやマイク=タイソンのような容姿をしてなきゃおかしいのに、ハリウッドはシルヴェスター=スタローンをチャンピオンにする。カラテは日本の武術だと誰でも知ってるのに、日本人の『KARATE KID(邦題「ベストキッド」)』は作られない。僕たちは闘わなくてはならないんだ。道化役や“親友”の役でなく主役を獲得するために。『マルコムX』『パンサー』そして『バッドアス!』『レイ』などのような映画をつくって出演するようにね。でも考えてみてほしい。僕たち黒人はスタジオを所有していないけれど日本人はソニースタジオを持ってるじゃないか! 一体どうしたんだ? 日本人のスターはどこに居るんだ? 君達のデンゼル=ワシントンは? 日本のハル=ベリーは? メルヴィンがスタジオを持ってたらどんなことになると思う?(笑)『パールハーバー』は日本ではどんな風に公開されたの? 一体どうしたっていうんだ?
中田 さらに悲劇的には僕たち日本人は映画を買ってるんですよ。映画の権利をお金をだして買っているんです。
マリオ 僕は全部の映画がそうあるべきだとは言ってないよ。でも格闘技がテーマじゃない映画で日本人が主役、っていう映画が少なくともいくつかあってしかるべきじゃないの?
中田 1945年に戦争に負けて以来そうなんですよ。事実上の衛星国ですからね。アメリカから買い続けているんです。ジーンズとか、コカコーラとか、マクドナルドとかそういったものをね。そして映画。映画というのは特に影響力がありますからね。
マリオ その通りだよ! フランツ =ファノン(注※4)はこう言ってる。「最も狡猾な支配者は、教会と学校の陰に隠れて人々を支配する」と。もし彼が生きていたらそこに「映画とテレビ」も加えたろうね。なぜなら映画やテレビは子供達に「あんな風になりたいなあ!」って思わせるからね。でも、日本人はスタジオを所有しているのに!
中田 そうですね。それはソニーという会社が、ですけどね。映画とテレビのことはもちろん同意見です。最もマインドに影響してくるものでしょうね。敗戦以来 ---、別に「敗戦」そのものに文句を言っているわけではありませんよ。その後のことです。ベトナム戦争でも、湾岸戦争でもアフガンでもイラクでも、日本政府は100%アメリカを支持しました。ハリウッド映画は日本人のマインドコントロールの道具として機能してきたと言えると思うんです。
マリオ それこそがこの映画『バッドアス!』や『スウィートバック』の素晴らしい点だよ。ハリウッド映画じゃない。僕たちが信じる真実を直接みんなへ届けるんだ。映画を気に入ってもらえても、万が一そうでなくても、これは僕の心からの真実だよ。わかるだろ? とても貴重で価値あるコミュニケーションを築きたいな。『ベストキッド』とか『パールハーバー』みたいな映画でアメリカにおける日本人像ができあがっていくのは避けたい。リアルな映画を観たいね。
中田 そうですね! 僕からの最後の質問は「いい監督がいい作品をつくれる環境がアメリカにはあると言えますか?」でしたが、もうその質問には答えてくださったように思います。
マリオ うん、できると思うよ。ちゃんと勉強すればね。でも映画製作の技術的な事項だけに限らずに言えば、父さんが言うように、配給システムの門はなかなか固くて困難だ。つくるのはそんなに難しくない。幸い今回(『バッドアス』)はロンドンでもオーストラリアでも日本でも気に入ってもらえて、公開できるというわけなんだ。感謝してるよ。
メル 『スウィートバック』は 30年で3ヶ国しか公開されていないんだ。
中田 たったの3ヶ国ですか? (ここで時間切れのため写真撮影となったため、インタビューは終了。)
※ 4 フランツ=ファノン Frantz Omar Fannon.....アルジェリア独立運動に大きな影響を与えた活動家・思想家。